伝統工芸

輪島塗の魅力と再生への挑戦|職人の分業と震災後の取り組みを知る

石川県輪島市で受け継がれてきた輪島塗は、丈夫さと美しさを兼ね備えた漆器です。震災後の産地では、生産を再開するだけでなく、展示や発信を通じて輪島塗との新しい接点をつくる動きも続いています。

この記事の結論

輪島塗の再生には、被災した作業場や道具、人材の回復と、使い手に届く機会の拡大が必要です。「輪島塗再生プロジェクト〜繋ぐ手、灯す漆〜」は、展示販売や催しを通じて、作品と職人の再建を結びつけています。

  • 輪島塗の丈夫さは、下地づくりと職人の分業に支えられます。
  • 産地は震災前から担い手と生産額の減少に直面していました。
  • 生産の再建と、日常使いや展示を通じた発信が進んでいます。

輪島塗はなぜ丈夫で、長く使えるのですか?

輪島塗は、木地に布を着せ、輪島の地の粉を用いた下地をつくり、漆を重ねて仕上げる漆器です。職人が工程を分担して仕上げる丈夫な器は、修理しながら使い続けられます。

輪島塗
輪島塗とは、石川県輪島市で受け継がれてきた、職人の分業によって木地づくりから漆塗り、加飾までを行う漆器のことです。

石川県輪島市で生まれた輪島塗は、木地づくりから漆塗り、装飾までに100を超える工程を要します。漆を何層にも重ねる仕事には時間がかかり、一つの器に複数の職人の技術が注がれます。日本政策投資銀行は、木地への布着せと、輪島の地の粉を使う下地づくりを輪島塗の特徴として挙げています。

文化庁「文化遺産オンライン」によると、輪島塗の技術は木地・髹漆・加飾に分かれ、椀木地や塗師、沈金、蒔絵など計8職で分業されています。江戸時代には、すでに6職による分業が行われていました。木地を形づくる仕事、漆を塗り重ねる仕事、表面を飾る仕事がつながることで、一つの輪島塗が完成します。

輪島塗の歴史は、古い記録にも残されています。文化庁「文化遺産オンライン」は、輪島市内の重蔵権現講堂に関する文明8年、1476年の棟札に塗師の名が記されていると紹介しています。輪島塗は1975年に伝統的工芸品、1977年4月25日に重要無形文化財に指定され、文化庁は輪島塗技術保存会を保持団体として記載しています。

工程 仕事の内容 関わる職の例
木地 器の形となる木地をつくります 椀木地
髹漆 下地を整え、漆を塗り重ねます 塗師
加飾 漆器の表面に装飾を施します 沈金・蒔絵
輪島塗を支える主な工程

輪島塗を日常の食卓で使う魅力とは?

輪島塗の黒や朱は料理の色を引き立て、普段の食卓にも取り入れられます。使い込むほどに艶が増し、修理しながら長く使えることも魅力です。

輪島塗は、飾って眺めるだけでなく、料理を盛り付けて使う漆器でもあります。地元の料理を盛ると、黒や朱の器が料理の色味を引き立て、食卓に華やかさを添えます。特別な機会だけにしまっておくのではなく、毎日の食事で手に取ることが、漆器の手触りや色の変化に親しむきっかけになります。

輪島塗は使い込むほど艶が増し、傷みが生じた場合には修理もできます。長く使うことを前提に手入れを重ねれば、一つの器を世代を超えて受け継ぐこともできます。家族の食卓で使われてきた時間が器に重なる点は、新しいものに替えるだけでは得られない輪島塗の価値です。

輪島塗を日常で使うことは、伝統工芸を現在の暮らしに結びつける方法でもあります。丈夫な下地をつくり、職人が分業で仕上げる技術は、使い続けられる器としての魅力につながっています。修理をしながら一つの器を長く使う考え方は、サステナブルな暮らしにも通じます。

輪島塗の産地は震災前からどのような課題を抱えていましたか?

輪島塗の産地では、2024年の能登半島地震より前から生産額と従業者数が減少していました。震災によって事業者の被害が重なり、技術の継承に加えて、生産を続ける場所や人を確保する課題も大きくなりました。

日本政策投資銀行によると、輪島塗の生産額は1991年に180億円でピークを迎え、2023年には20億円となりました。従業者数も1990年の2,893人をピークに減り、2023年には965人となっています。生産と担い手の減少は、震災によって初めて生じた問題ではなく、産地が以前から向き合ってきた課題です。

日本政策投資銀行によると、2024年の能登半島地震では輪島塗の事業者の8割超に被害が発生しました。輪島塗は木地、漆塗り、加飾を職人が分担してつくるため、産地の再建には個々の職人の仕事だけでなく、工程をつなぐ生産体制も関わります。被災後の取り組みは、震災前からの担い手減少と重ねて考える必要があります。

財務省北陸財務局が紹介する震災後の事例では、作業場や材料、道具が損壊した事業者が、半年後に生産を再開しました。一方で、生産体制は十分に戻っておらず、生産額は震災前の約7割にとどまっています。同局によると、従業者数も震災前の7~8割で、市外へ避難した後に戻れていない人がいることも要因に挙げられています。

項目 ピーク時 2023年
生産額 1991年、180億円 20億円
従業者数 1990年、2,893人 965人
震災前から続く輪島塗産地の変化

輪島塗の生産再開には何が必要ですか?

輪島塗の生産再開には、作業場・材料・道具を整えることに加え、職人が働き続けられる体制と販売先をつなぐ取り組みが関わります。生産を再開した後も、震災前の生産体制に近づけていく仕事が続きます。

輪島塗の再建では、損壊した作業場や道具への対応と、材料を使って仕事を続けられる環境づくりを分けて考えられます。財務省北陸財務局が紹介する事業者は、震災から半年後に生産を再開しましたが、生産額は震災前の約7割でした。操業の再開と、生産体制の回復は同じ段階ではありません。

岸田首相は2024年9月19日の会見で、希望する輪島塗職人が入居できる仮設工房の整備を同年秋に進める方針を述べました。同じ会見では、輪島塗の販路開拓を支援してほしいという要望を受け、政府として協力する意向も示しています。職人が制作する場所と、完成した作品が使い手に届く経路の双方が、再建の論点になっています。

首相官邸は、生業再建支援事業などによる事業の再開・継続支援を案内しています。支援の上限は石川県で最大15億円、富山県・福井県・新潟県で最大3億円とされていますが、県別の上限であり、個々の事業者が受け取る金額ではありません。輪島市も、石川県の商店街災害復旧事業補助金に市独自で上乗せする制度を案内しており、市の補助額は県補助額の6分の1、上限50万円です。

岸田首相は2024年9月19日の会見で、能登半島地震への対応として、6次にわたる総額6,640億円の予備費執行と、石川県の復興基金に対する520億円の特別交付税措置を説明しました。金額は地域全体の復旧支援に関するもので、輪島塗だけに充てる金額ではありません。産地の再建を考える際には、地域全体の支援と、職人や事業者が必要とする作業環境・販路を区別することが大切です。

  1. 職人が制作できる作業場を整えること
  2. 損壊した道具と、制作に使う材料に対応すること
  3. 避難後の従業者を含め、仕事を続ける人の状況を考えること
  4. 作品を使い手に届ける販売先をつなぐこと

輪島塗は再生の取り組みをどう伝え、使い手を広げていますか?

輪島塗の職人や関係者は、再生作品の展示販売、漆をテーマにした催し、企画展、SNSでの発信を通じて取り組みを伝えています。新しい形や色彩の作品も、現代の暮らしに漆器を取り入れる接点になっています。

「輪島塗再生プロジェクト〜繋ぐ手、灯す漆〜」は、再生作品の展示販売に加え、漆をテーマにしたカフェや漆文化に関するトークイベントを行っています。作品を販売するだけでなく、職人の仕事や再建に向かう過程を来場者と共有する取り組みです。輪島塗を選ぶ人が、器の背景にある技術や産地にも触れる機会をつくっています。

美術館やギャラリーの企画展、プロジェクト型の展示では、伝統的な輪島塗とともに、現代の生活空間に合う新しい形の作品も紹介されています。異素材との組み合わせ、新しい色彩、ミニマルなデザインも表現の一部です。輪島塗の技術を受け継ぎながら、現在のライフスタイルで使う方法を探っています。

輪島塗の再生プロジェクトや関連イベントは、SNSでも発信されています。輪島市から離れた人にも活動を届けられるため、展示会場を訪れる機会とは異なる接点が生まれます。2024年8月14日に「ジモコロ」で紹介された漆芸家・桐本滉平さんの発信も、震災後に輪島塗を続ける職人の姿に触れる機会の一つです。

輪島塗を未来につなぐ動きには、工房での制作再開と、使い手との関係づくりの両方があります。家庭の食卓で使うこと、展示で新しい表現に出会うこと、催しを通じて漆文化を知ることは、それぞれ輪島塗との関わり方です。職人の分業を支える産地の再建と、作品に触れる機会の広がりが並行して進んでいます。

よくある質問

輪島塗は傷んでも修理して使えますか?

輪島塗は修理しながら長く使える漆器です。使い込むほどに艶が増すため、日常の食卓で使い続ける楽しみもあります。

能登半島地震の後、輪島塗の生産は再開していますか?

財務省北陸財務局は、作業場や道具などが損壊し、震災から半年後に生産を再開した事業者の例を紹介しています。生産額は震災前の約7割にとどまるとしています。

輪島塗の再生作品や職人の活動にはどう触れられますか?

「輪島塗再生プロジェクト〜繋ぐ手、灯す漆〜」では、再生作品の展示販売や漆文化に関する催しが行われています。企画展やSNSでの発信も、作品や活動を知る接点です。

まとめ

  • 輪島塗は布着せや輪島の地の粉を用いた下地づくりを特徴とし、職人の分業で仕上げられる漆器です。
  • 輪島塗は日常の食卓で使え、修理をしながら世代を超えて受け継ぐこともできます。
  • 日本政策投資銀行によると、輪島塗の従業者数は1990年の2,893人から2023年には965人となりました。
  • 2024年の能登半島地震後の産地では、作業場や道具、人材、生産体制の回復が課題になっています。
  • 輪島塗再生プロジェクトは、展示販売や漆文化を伝える催しを通じ、作品と使い手の接点を広げています。

出典:がくラボリング

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